あんなに美しかった思い出も
埃を被って、今ではもう
全て灰色になってしまった。

僕はそこに立つ
薄暗い灰色の部屋。

そこに感情はない、
電気も流れない、
僕以外誰も居ない、
時間の流れも気にならない、
重たい色のカーテンで囲まれた
薄暗い灰色の部屋。

その部屋の真ん中には、
無色透明、ハートの形をした
ガラスの容器が置いてある。

それだけは微かな埃もない。
重く分厚いガラス。
なのに、今にも割れそうな、
繊細なものに映る。

それは、尊さのような感情。

ふと、気になる。
感情がぴくりと震える。

それは、尊さのようなものから
愛おしさに変わる音がした。

パチッ。

僕の両足が一歩ずつ前進し、
この瞬間だけは
これが自分のものかと疑ってしまう程、
勝手に両手は伸びて、
腰も少し折れ、
丁寧に、慎重に、そっと、
それを両手で持ち上げる。

ん?

軽い。とても、軽い。
見た目からは想像もできない程に。
僕は不思議そうに、それを眺める。

だが、その先がない。
両手足は明らかにもう自分のもので、
僕はどうして良いか分からず、
そのままそれを、抱きしめた。
だが、その強ささえ分からない。

落としそうになり、
割ってしまいそうになり、
両手で大切に抱きしめた。

あれ?

僕のどこかがポカポカしてくる。
心地良く穏やかな気持ちになる。
そっと、それを覗くと、
不思議な色をした液体が注がれていて、
少しばかり重たくなった代わりに、
強く抱きしめても壊れそうではなくなった。

今の僕に
その正体は分からない。
それでも、それを僕は
当たり前のように受け止めている。

僕は部屋の中心に、
丁寧にそれを戻して、
埃をかぶった思い出を
静かに指で拭った。

あぁ。

なぜだろう。
ただの薄暗い灰色の部屋が今、
全く別世界の部屋のように見える。

薄暗い灰色の部屋。電球は切れている
薄暗い灰色の部屋。それならそれでいい。
さぁ、カーテンを開き、窓を開けよう。

昼間なら太陽が、夜なら月が、
剛と柔の自然光が、優しく照らしてくれる。
もしも雨でも降っていたなら、
その雨で濡らした雑巾で部屋を掃除しようか。

終わる頃には、
美しかった思い出に
優しい光が射し込んで、
より美しく見えるだろう。

そんな、
暖かく包み込んでくれる、
灰色のない部屋。

その部屋の真ん中には
僕の一番好きな色で
満たされていた。

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